十勝いけだ屋ストーリー

第 1 話

守りに入らない、アイデア集団。十勝いけだ屋ができるまで。
「じゃあ、やるべや」。
メンバーと構想は瞬く間に固まった。
池田町にUターンした細川征史さんは、次第に町の課題に気がつくこととなる。町内で商売をする先輩は「自分が食べていければいい」とみな口を揃えて言うのだ。「明確なライバルのいるサラリーマンと違って、商売をやっている人は孤独。何が正しいのかわからなくなる」と細川さん。それでも人口は減っていくし、経済規模もいきなり大きくなることはない。「じゃあ、やるべや」。こうして立ち上がったのが「IKEDAノムリエ研究会」という異業種交流グループだった。

ノムリエ研究会は2010年に設立。商業、農業の将来を担う20~30代(当時)約20名が集まり、元町長の丸谷金保さんを招いてワインの歴史を勉強するなど交流を促進した。十勝いけだ屋のメンバーのうち、田中健二さんが会長を務め、細川さん、吉地隆行さん、吉田岳大さんも参加。1年目は「十勝ワインバイザー」試験に10名が挑戦し、全員合格。2年目には田中さんがソムリエに合格してさらに箔をつけた。参加者も少しずつ増えて、コミュニティとしてはまとまったが、次第に「飲み会をして終わる」ようになってしまったという。「人は5年くらいで守りに入ってしまう。つい大人は楽を求めてしまうから」と細川さん。次なる手を打つ必要があった。

そんな悩みを抱えていたとき、細川さんは新潟県の雪室に出合った。雪を活かし、雪と生きるプロジェクトを知り、あるアイデアが頭に浮かんだ。池田町の素材を寝かせて、熟成させることで旨みが増すのではないか。ちょうど吉地さんはじゃがいもの熟成に手を出していたし、吉田さんの山わさび、林さんのにんにくにも可能性があった。頭脳派の美濃さんが作る玉ねぎも良い。細川さん曰く「神の舌を持っている」料理人・田中さん、センスを活かして自らカフェを営む赤松さん…といったように、細川さんの脳内にはすぐに十勝いけだ屋の構想が出来上がったそう。

決まれば早いのが、細川さんたち。2017年の11月には決心し、翌2018年2月には会社として設立。NPO法人や協議会ではないところがポイントだった。利益を生んで、本気で周囲を巻き込んでいく決意の現れである。熟成セットはもちろん、町内の菓子店の商品を新たにパッケージングしたセットなどを次々開発。でもこれは彼らの発想のほんの一部にすぎない。月1回の会議で出されるアイデアの種は、今も順番待ちの行列を作っている。

メンバーには共通する目的がある。「地元の若い世代の未来の雇用に繋げたい」。心の底からそう考えているから、個別に話を聞いても同じ話が出てくるのだ。まずは十勝いけだ屋の事業で雇用が生まれるように。本気の大人が7人集まると、物事はぐんぐんと進んでいく。

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